どうも、とんマヨです。大阪で民泊を運営しながら、このブログを書いています。
夏です。予約カレンダーに白い日が並び始めると、ホストの頭には毎年同じ言葉が浮かびます。「そろそろ値下げするか」。
わたしも何度も浮かべました。そして今年、実際に価格を下げる前に、数字を調べ直してみました。
結論から言います。多くのホストは、値下げの判断に使っている数字そのものを間違えている可能性があります。特に今年の大阪は、かなり危険です。
とんマヨさん、また「夏やし下げとくか」って言うてましたよね。
言うた。だって暇そうやもん。カレンダー真っ白やもん。
その「暇そう」、何を根拠に言うてます?
……勘や。
一番高くつくやつですね、それ。
💸 値下げは、一番簡単で一番戻しにくいレバー
ホストが持っているレバーの中で、価格は圧倒的に扱いやすい部類です。管理画面を開いて数字を打ち替えるだけ。所要時間は10秒。
しかも効果が出たように見えます。下げた翌日に予約が入れば「やっぱり高すぎたんだ」と思えます。
ただ、このレバーには厄介な性質が2つあります。
1つ目は、下げた単価は戻しにくいこと。一度その価格で予約が入ると、次の月も同じ価格で比較されます。
2つ目は、単価を変えると客層が変わること。これは実際に経験しました。値段でしか選ばれていない予約は、滞在中の要望も、部屋の使われ方も、レビューの付き方も違います。
つまり値下げは「とりあえず」で押していいボタンではありません。押すなら根拠が要ります。では、その根拠になる数字とは何なのか。ここからが本題です。
📉 全国の数字:ひと月で「延べ325万人分」の宿泊が消えた
まず、市場が本当に冷えているのかを確認します。感覚ではなく統計で見ます。
観光庁の宿泊旅行統計調査によると、2026年6月の全国の客室稼働率は56.2%。前年同月の58.8%から2.6ポイント下がり、3年前と同じ水準まで戻っています。
割合だけだとピンとこないので、絶対数で見ます。ここからが本番です。
| 指標(2026年6月) | 実数 | 前年同月比 | 消えた量 |
|---|---|---|---|
| 全国の客室稼働率 | 56.2% | -2.6pt | 3年前の水準へ |
| 延べ宿泊者数(全体) | 4,677万人泊 | -6.5% | 約325万人泊 |
| うち中国からの宿泊 | 112.8万人泊 | -53.8% | 約131万人泊 |
| 日本人宿泊者 | — | 18か月連続マイナス | じわじわ減 |
出典:宿泊旅行統計調査(2026年6月)の分析をもとに作成。「消えた量」は前年同月比から逆算
ひと月で、全国から延べ325万人分の宿泊が消えた計算になります。そのうち約131万人分が中国の急減によるもの。減った量の4割を、中国という一つの市場が占めているわけです。
表に出てくる「人泊」。とんマヨさん、自分で書いといて説明できます?
人が……泊まる……数?
ざっくりすぎです。読み方は「にんはく」。1人が1泊したら1人泊、2人で3泊なら6人泊。役所の統計はこの単位で数えます。
おお、いまAIに聞いた答えと一緒や。さすがちめんちゃん。ちなみに325万人泊は、うちの宿でいうと4万年ぶんやで。
例えが壮大すぎて逆に分からんくなりました。
気のせいではありません。市場は本当に冷えています。しかも「外国人が増えているから大丈夫」という慰めも、この6月に関しては通用しません。外国人宿泊者も4か月連続でマイナスです。
ここまでなら「やっぱり値下げか」で終わる話です。問題はこの先にあります。
3年前の水準まで巻き戻り
🎪 大阪だけ事情が違う——これは閑散期ではなく「返済」
ここからが、大阪でやっている人間には一番大事な話です。数字を3つ並べます。
数字①:去年の大阪は年間稼働率78.8%で全国トップでした。2025年の都道府県別で最も高い数字です。理由ははっきりしています。万博です。
数字②:今年の大阪は、例年比マイナス11.06ポイントで全国最大の落ち込み。2026年1〜5月平均の客室稼働率を、万博前の例年(2015〜2019年の同期間平均)と比べた分析によるものです。2位以下は沖縄の-5.87pt、熊本の-5.39ptですから、大阪の下げ幅は文字どおり桁違いです。
数字③:それでも大阪の稼働率の「水準」は、まだ全国3位。近畿運輸局の観光統計(2026年2月分)によると、大阪府の2月の客室稼働率は70.1%。コロナ前の大阪は8割超えが当たり前だったので1割下がった形ですが、それでも全国で3番目に高い。
この3つを並べると、今の大阪の姿が正確に見えます。
大阪は「ダメになった」のではなく、高いところから深く落ちた。落ち込み幅は全国最大なのに、水準はまだ全国3位。この二つが同時に成り立つのは、去年が異常に高かったからです。つまりこれは閑散期ではなく、万博特需の「返済」です。
関空の入国者数を見ると、返済の中身も分かります。同じ近畿運輸局の統計で、2026年2月の中国からの入国者は10.9万人。前年同月の25.1万人から-56.4%、ひと月で約14万人消えました。1〜2月の累計では約37万人の減少です。一方で韓国は+29.0%、台湾は+35.8%と絶好調。中国の穴を他の市場が埋めきれていない、というのが減少の正体です。
季節の谷は毎年来ます。夏は梅雨と猛暑と台風で、どの年も宿泊需要が凹みます。これは織り込んでおくべき固定の谷です。一方で万博の反動と中国の急減は、今年だけの一時的な段差です。性質がまったく違います。固定の谷への打ち手と、一時的な段差への打ち手は、同じであるはずがありません。
🧮 前年比で値下げを決めると、ほぼ確実に間違える
ここまで来ると、なぜ「前年比」が危ないかが見えてきます。
大阪のホストにとって、前年比とは万博比のことです。年間稼働率78.8%・全国トップの年と比べれば、誰でも絶望的な数字が出ます。
その絶望を根拠に価格を下げると、何が起きるか。本来なら戻ってくるはずの相場に、自分から低い値札を貼りに行くことになります。しかも一度貼った値札は、先ほど書いたとおり戻しにくい。
では何を見ればいいのか。整理するとこうなります。
| 判断材料 | 使い方 |
|---|---|
| 前年同月比 | 今年の大阪では使わない。比較相手が特需の年なので、判断が必ず悲観に振れる |
| 例年(特需前)比 | こちらが本命。平常運転の水準(大阪なら8割前後)に対して自分が上か下かを見る |
| 自分の予約リードタイム | 何日前に予約が入る宿なのか。そこに到達していない先の空白は、まだ「空室」ではない |
| 同条件の競合の空き | 自分だけ空いているのか、周りも空いているのか。前者なら価格以外に原因がある |
最後の行が地味に効きます。周りも同じように空いているなら、それは市場の問題であって、あなたの部屋の問題ではありません。値下げしても、隣も下げるだけです。
🙋 【反論】理屈はいい。現に予約が入らないじゃないか
「統計の話は分かった。だが現に、予約が入らない。埋まらなければ売上はゼロだ。ゼロより安くても入ったほうがマシではないのか」
まっとうな反論です。そして半分は正しい。当日に近づいた空室は、実際に下げてでも埋める価値があります。
ただ、ここには見落としがあります。値下げして埋まるのは、そもそも検索結果に表示されていた場合だけだということです。
表示されていない部屋は、いくら安くしても埋まりません。値札は、見てもらえて初めて意味を持ちます。
わたしは以前、設定ミスで表示価格が4割高くなっていたことに自分で気づかず、何週間も「今年の夏は厳しいな」と唸っていたことがあります。市場のせいにしていた期間、原因は完全に自分の管理画面の中にありました。
市場のせいにしてた期間、犯人ずっと家におったやつですね。
その話やめて。まだ傷が新しいねん。
ですから順番はこうです。①表示されているかを確認する → ②周りも空いているかを確認する → ③それでも空いていて、リードタイムを過ぎているなら、初めて価格を触る。
いきなり③から入るのが、一番もったいない。
🏠 うちの宿は、市場が沈む横で伸びました
ここで自分の宿の話をします。金額は伏せますが、傾向は正直に書きます。
全国が前年比マイナス6.5%で沈んでいるあいだ、うちの宿の売上は春から3か月連続で伸びました。夏に入ってからも、予約ベースで下がっていません。
ただし、ここは正直に前置きが要ります。そもそもの出発点がひどかったのです。
春先は取りこぼしが多すぎました。月割の割引設定を50%のままにしていて、29泊の予約がまるごと格安で入ったのもこの時期です。低いところからの回復という側面が、確実に含まれています。市場に勝ったというより、自分のミスに勝っただけの部分がある。
そのうえで、なぜ市場と逆に動けたのか。仮説を3つ書きます。断定はできません。あくまで仮説です。
仮説1:白い部屋をやめて、和モダンに振ったこと
うちは古い一軒家を、和の要素を残したまま整えています。ここが結果的に効いている可能性があります。
明るくて清潔でホテルのような白い部屋は、間違いなく万人受けします。ただ、万人受けする部屋は、同じことをしている宿が多すぎる。似た部屋が並んだ検索結果の中では、最後は価格でしか差がつきません。
ホストが集まる場でも「白くてきれいな部屋がいちばんしんどい」という話はよく耳にします。差別化できない部屋は、値下げ合戦の最前線に自動的に配置されます。
仮説2:立地。イベントがある日は市場と無関係に埋まる
うちは大型アリーナが徒歩圏です。公演がある日は、市場全体が冷えていようが関係なく需要が立ちます。
これは運の要素も大きいのですが、物件を選ぶ段階で「市場が悪い日でも需要が立つ理由」を1つ持っておけるかどうかは、あとから効いてきます。
仮説3:全部、妻の助言どおりにした
そして身も蓋もない仮説がこれです。和モダンに振ったのも、この立地を選んだのも、発案はわたしではありません。全部、妻の助言どおりに動いた結果です。
つまり今回の勝因は、ワイの戦略眼ということやな。
いま全部「奥さんの案」って書いてありましたけど。3つとも。
それを採用したのがワイやろ。目利きの目利きや。
奥さん最強説、揺るがんかったですね。

ここで言いたいのは「うちはすごい」ではありません。逆です。市場の平均と、自分の宿の実績は、平気でズレるということです。まず自分の数字を見てください。市場のニュースで値下げを決めるのは、順番が逆です。
🛤 じゃあ今更どうする?——残された3つの選択肢
ここで、鋭い読者はこう思ったはずです。「和モダンも立地も、開業前の設計の話ではないか。もう白い部屋で開業してしまった自分は、今更どうすればいいんだ」と。
そのとおりです。部屋のコンセプトと立地は、あとから変えるのが一番難しい。だからこそ、正直に選択肢を並べます。実質、3つしかありません。
選択肢1:リスティングの大規模テコ入れ
物件は変えられなくても、見せ方は全部変えられます。写真の撮り直し、最初の5枚の入れ替え、タイトルと説明文の全面刷新。リスティングは公開直後の露出が勝負ですが、大規模改修はアルゴリズム上「作り直し」に近い扱いになることがあり、停滞した宿の再起動としては合理的な一手です。
白い部屋なら、白いなりの磨き方があります。小物・ファブリック・照明で「どの白い部屋とも違う一枚」を作る。全面リフォームより桁違いに安く、今日から始められます。
選択肢2:低単価で耐え凌ぐ
「値下げするな」と言ってきた記事で矛盾するようですが、違います。なんとなくの値下げと、戦略として選ぶ低価格は別物です。
固定費を把握し、キャッシュが回る最低ラインを計算した上で、「この期間は稼働優先で現金を確保する」と決めてやるなら、それは立派な生存戦略です。ダメなのは、根拠なくズルズル下げて、戻すタイミングを失うことです。
選択肢3:撤退
触れたくない選択肢ですが、並べないのは不誠実でしょう。テコ入れの投資回収が見込めず、耐えるキャッシュもないなら、傷が浅いうちに畳むのも判断です。撤退は敗北ではなく、次の物件のための資金回収です。
時間軸の話:この谷はいつまで続くのか
選択肢を選ぶには、谷の長さの見立てが要ります。中国からの訪日客の急減は、政策要因によるものです。あくまでわたし個人の予想ですが、この手の渡航自粛は長くても2年程度ではないかと見ています。過去の日中関係の冷え込みも、数年単位で必ず揺り戻しが来ました。
外れるかもしれません。ただ「無限に続く氷河期」ではなく「2年前後の谷」と見立てるだけで、選択肢の重みが変わります。2年耐えられるキャッシュがあるなら選択肢2が現実的になり、ないなら選択肢1で今すぐ動くべき、という判断ができるからです。
🌅 それでも大阪に賭ける理由——IRと副首都
暗い話が続いたので、大阪の中長期の材料も並べておきます。これは希望的観測ではなく、進行中の事実です。
1つ目はIR(統合型リゾート)です。万博会場の隣、夢洲で2025年に本体工事が着工済み。カジノ・ホテル・国際会議場を含む巨大施設が、2030年の開業に向けて動いています。開業すれば、万博と違って「終わらない集客装置」です。
2つ目は副首都構想です。災害時に首都機能を代替する「副首都」を整備する法案が2026年6月に国会へ提出されました。実現すれば、行政機能・企業・人の流れが長期的に大阪へ寄ってくる話です。
つまり大阪の宿泊需要は、2030年に向けてもう一段の山が仕込まれている。いま撤退ラッシュで供給が減っている分、生き残った宿がその山を取ります。目の前の谷は「返済期間」であって、市場の終わりではない——わたしはそう見ています。
だからこそ、先ほどの3択は「2030年の山まで、どう生き延びるか」という問いに言い換えられます。
🛠 値下げの前にやることリスト
ここまでの話を、明日から使える形にまとめます。夏のカレンダーを見て指が価格欄に伸びたら、その前にこれを順番に確認してください。
- 検索結果に自分の部屋が出ているかを、実際に検索して確認する
- 割引設定・特別料金が意図しない形で残っていないかを確認する
- 自分の宿の予約リードタイム(何日前に入るか)を数える。到達前の空白は空室と数えない
- 同条件の近隣が埋まっているかを見る。周りも空いているなら価格の問題ではない
- 最低宿泊数を触る。値段を下げずに入口を広げられる場合がある
- それでも空いていて、リードタイムも過ぎている日だけ、価格を触る
そして、どうしても手が空いてしまう時期があるなら、そこは選択肢1の仕込みの時間に変えられます。写真の撮り直し、説明文の見直し、備品の入れ替え。谷が来ることが分かっているなら、谷でやることを先に決めておけば慌てません。
✅ まとめ
- 2026年6月、全国で延べ325万人分の宿泊が消えた(前年比-6.5%)。うち約131万人分は中国の急減(-53.8%)
- 大阪は例年比-11.06ptで全国最大の落ち込み。ただし水準はまだ全国3位(2月70.1%)=高いところから深く落ちただけ
- だから前年比(=万博比)で値下げを決めると、判断が必ず悲観側に振れる
- 今更コンセプトを変えられないなら、道は3つ——テコ入れ・戦略的低価格・撤退。谷は2年前後と見立てて選ぶ
- 2030年にはIR開業という次の山が仕込まれている。目の前の谷は返済期間であって、市場の終わりではない
値下げは最後のレバーです。先に触るべきは、価格ではなく前提のほう。ニュースの数字ではなく、自分の管理画面から始めてください。
民泊は、他の副業に比べればずいぶん楽な部類だと思っています。仕組みを作れば手は離れますし、寝ている間に予約は入ります。ただ、楽なぶんだけ「なんとなく」で意思決定してしまう瞬間があって、そこだけは高くつきます。
よし、ワイは今年の夏、一円も下げへん。2030年まで耐える。
ええ判断です。ちなみに来月、奥さんはなんて言うてました?
「9月の3連休だけは強気でええで」って。
この記事、奥さんのインタビューでよかったんちゃいます?



